酸化亜鉛紫外発光デバイス

【背景】
  発光デバイスは低消費電力の照明などとして応用されていることはよく知られています。近年では窒化ガリウムを用いて青色発光ダイオードが作製されたことは、記憶に新しいと思います。我々のグループでは酸化亜鉛(ZnO)を用いた紫外線レーザーの開発を行っています。ZnOは、窒化ガリウム(GaN)と同じ程度のバンドギャップ(3.37eV)を持つ半導体で あり、励起子の束縛エネルギーが他の半導体(GaN 28meV, ZnSe 19meV)と比べて、非常に大きい(60meV)ことが特徴です。その利点を生かして、 我々は窒化ガリウムを凌駕する高効率な紫外発光デバイスの実現を目指し、研究を進めています。


【高品質酸化亜鉛薄膜からの発光】

図1.ZnO薄膜からの紫外線レーザー光によって励起され、赤緑青の色素を発光している様子。

  光励起によって励起子紫外発光しているZnO薄膜からの光で蛍光体を照射していている様子を図1に示します。このようにZnOを用いれば赤緑青の三原色を発光できるので、単一チップですべての色が 再現でき、ディスプレーとしての応用への道が開けます。原理的には紫外線レーザーで、ほかのすべての可視光レーザーを置き換えることが可能です。


【酸化亜鉛発光ダイオード】


図2.半導体レーザー素子の原理図

 半導体発光ダイオードおよびレーザーダイオードの基本原理を図2に示します。発光ダイオードでは、n型半導体とp型半導体から接合界面にキャリアを注入し、電子とホールが再結合するときにバンドギャップに対応した波長の光が放出されます。さらに、レーザーダイオードでは、この光が端面で反射を繰り返し、共振することで位相のそろったレーザー光が放出されます。本研究では、ZnOを用いて安価な高効率発光ダイオードおよびレーザーダイオードを作製することを目的としています。これら紫外線レーザー素子の実現のためには、p型ZnOが必要不可欠ですが、ZnOは酸素空孔や格子間位置亜鉛などの欠陥が電子を生成しくn型になりやすいため、p型化は非常に困難であるとされてきました。



図3.酸化亜鉛pnダイオードからの発光

 そこで我々は、薄膜の土台となる基板の検討、欠陥や不純物の低減を行い残留電子濃度を減少させたZnO作製法を確立しました。さらに、低温薄膜成長でのアクセプター(酸素位置への窒素ドーピング)の効率的取り込み と高温で結晶の改善を繰り返し行い、遂にp型ZnO薄膜の成長に成功し、ZnO発光ダイオードを世界で初めて実証しました(図3)。
 近年では、さらに作製手法を改善するとともに、NOラジカルガスやアンモニアを用いることでアクセプター取り込みを格段に向上させ、図4に示されるようにInGaN LEDに迫る発光強度を誇るZnO LEDの作製に成功しています。


図4.紫外発光ダイオードの発光強度。LED A - LED D (ZnO)およびInGaN LEDを比較している。

  本研究ではさらに高品質なp型ZnOを安定して作製できる技術を確立し、紫外線レーザー作製を目指します。

参考文献
1.ZnO発光ダイオードの解説記事
 大友 明,塚崎 敦,川崎雅司,パリティ Vol. 21(1), p. 24 (2006).
2.ZnO発光ダイオード第一報
 A. Tsukazaki, A. Ohtomo, T. Onuma, M. Ohtani, T. Makino, M. Sumiya, K. Ohtani, S. F. Chichibu, S. Fuke, Y. Segawa, H. Ohno, H. Koinuma, and M. Kawasaki, Nature Materials Vol. 4, p. 43 (2005).
3.最近のZnO発光ダイオードの進展
 K. Nakahara, S. Akasaka, H. Yuji, K. Tamura, T. Fujii, Y. Nishimoto, D. Takamizu, A. Sasaki, T. Tanabe, H. Takasu, H. Amaike, T. Onuma, S. F. Chichibu, A. Tsukazaki, A. Ohtomo, and M. Kawasaki, Applied Physics Letters Vol. 97, p. 013501 (2010).