デラフォサイト化合物CuScO2薄膜の作製

【背景】
 酸化物は主にイオン結合性であるため、その多くは結晶が安定であり様々な構造を取ることができます。そのため、陽イオンの選択性に加え構造に柔軟性があり、多様な物性を示します。従って、未だ発見されていない機能材料が数多く存在します。そのような物質のうち、近年我々が高品質薄膜作製に成功したCuScO2について紹介します。


【CuScO2薄膜作製】
 図1に示すようにCuScO2はO-Cu-Oダンベル構造とScO6の八面体からなる層構造を成している。このような二次元的層構造は高温超伝導を示す銅酸化物で大きな役割を果たしていることからも見受けられるように、三次元的な物質とは異なった格子・磁気相互作用やキャリアの閉じ込め効果、フェルミ面のネスティングなどにより、様々な物性を表す舞台となる。CuScO2の関連化合物としては、非常に強い励起子効果を示すCu2Oや、p型透明電極として期待されているCuAlO2がある。



図1.CuScO2の結晶構造模式図。

 CuScO2薄膜の多くはサファイア基板上に作製されいますが、基板と薄膜の格子定数のミスマッチのため良質な結晶が作製困難であり、明瞭な物性は観測されてきませんでした。そこで我々はMgAl2O4基板を用いることで、基板と薄膜のミスマッチを軽減し、図2のX線回折パターンに示されるような良質な薄膜の作製に成功しました。



図2.CuScO2薄膜のX線回折測定におけるロッキングカーブ(左パネル)と2q-q測定(右パネル)。Sample A, Bがこの研究で作製された薄膜。ロッキングカーブの半値幅は結晶性を表し、2q-q測定のフリンジは表面が平坦な薄膜において膜厚を反映した周期で現れる。

 このような良質な薄膜の光学物性を測定するため吸収スペクトルを測定すると、図3ように明瞭な励起子ピークが観測されました。最も特筆すべき点として、励起子エネルギーが380 meVに達することがあげられます。これは室温のエネルギー(25 meV)どころかZnOの励起子エネルギー(60meV)に対しても非常に大きく、発光素子として非常に有望な特性を持っています。



図3.我々が作製したCuScO2薄膜(Sample B)と過去の文献における試料の吸収スペクトル

 以上の研究のように新物質を作製したり、薄膜の高品質化を行うことは、初期段階において幾多の困難がありますが、それを克服したときには自分のみが作製できる物質が完成するとともに、新しい分野を切り開く基礎となり、「ものづくり」の醍醐味であります。

参考文献
1.強い励起子効果を持つCuScO2高品質薄膜の作製
 H. Hiraga, T. Makino, T. Fukumura, A. Ohtomo, and M. Kawasaki, Applied Physics Letters Vol. 95, p. 211908 (2009).